再生医療コラム

DNAと遺伝子治療

医薬品医療機器等法(薬機法)の定義では、再生医療等製品とは「細胞加工製品」と「遺伝子治療用製品」の2つを指します。
「遺伝子治療用製品」とは、いったい何なのか、以前のコラムでもお伝えしましたが、今回は、再びこの「遺伝子治療用製品」について、承認済みの製品と共に紹介します。

> 再生医療コラム:遺伝子治療用製品とは?(別ウインドウで開きます)

そもそも「遺伝子」とは?

そもそも「遺伝子」とは何なのでしょうか? 遺伝子=DNAと捉えられることがありますが、厳密には異なります。DNA及びRNAは、1869年にフリードリッヒ・ミーシャにより発見された核内に存在する酸性の物質であり、核酸(ヌクレイン)と名付けられました。基本的な構造は似通っており、塩基、五炭糖、リン酸が結合したヌクレオチドを基本単位としています。

DNAの基本的な構造

DNAを構成するヌクレオチドの五炭糖は2’の炭素に水素原子(-H)が結合しており、RNAを構成するヌクレオチドの五炭糖は水酸基(-OH)が結合しています。水酸基がついた五炭糖構造をリボース(ribose)と呼び、これがRNAの頭文字です。

一方、酸素原子(オキシゲン)が無い=水素原子が結合している五炭糖をデオキシリボース(deoxyribose)と呼び、DNAの頭文字になっています。この五炭糖に、DNAではアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種、RNAではA,G,C、そしてTに代わりウラシル(U)の4種のいずれかの塩基が結合します。
それぞれ1つの塩基を持った4種類のヌクレオチドが多数連なることで「塩基配列(=DNA)」となり、この配列(4文字で書かれた文章)こそが遺伝情報を生み出します。

この様にDNAには生体に必要な遺伝情報が記録されていますが、実際に生体(細胞)内で働く物質は、DNAではなくタンパク質です。タンパク質はアミノ酸を基本単位とし、20種類のアミノ酸の配列(及びその組み合わせ)により個々のタンパク質が決定されます。このアミノ酸の配列を決定しているのがDNAの塩基配列です。
つまり、DNAはタンパク質の設計図なのです。DNAが記録する塩基配列のうち、このアミノ酸の配列を決定する部分を「遺伝子」と呼びます。ちなみに、生物のDNAが持つ全塩基配列を「ゲノム」と呼び、このうち「遺伝子」は数パーセントとされています。

遺伝子治療を目的とした製品

ここからは実際に承認されている再生医療等製品のうち、遺伝子治療を目的とした製品を見ていきましょう。
遺伝子治療は、疾病の治療や予防を目的として遺伝子を体内に投与するin vivoの治療と、遺伝子を導入した細胞を投与するex vivoの治療に分かれます。医薬品医療器等法(薬機法)では、このうちin vivoの遺伝子治療を行う製品のみを遺伝子治療用製品としています。

> 再生医療コラム:再生医療に関する法律 その1(別ウインドウで開きます)

さらに、薬機法では遺伝子治療用製品を「一.プラスミドベクター製品」「二.ウイルスベクター製品」「三.遺伝子発現治療製品」の3つに分類しています。

現在承認されている遺伝子治療用製品はアンジェス(株)が開発したコラテジェンと、ノバルティスファーマ(株)のゾルゲンスマの2製品です。それぞれコラテジェンはプラスミドベクター製品、ゾルゲンスマはウイルスベクター製品に分類されています。

コラテジェン(一般名ペペルミノゲン ペルプラスミド)は慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症・バージャー病)における潰瘍及び安静時疼痛の改善を目的とした、ヒト肝細胞増殖因子(hHGF)を発現する環状のプラスミドDNAです。本品は、hHGF遺伝子を含む5,181塩基対で構成されており、HGFの産生・分泌により血管新生をもたらし虚血状態の改善を期待しています。

コラテジェン(一般名ペペルミノゲン ペルプラスミド)

このプラスミドDNAの一部にhHGFを発現させる遺伝子が含まれています(DNAの一部が目的のタンパク質(ここではhHGF)を発現させる遺伝子を持つ)。このDNAが筋肉内に注射されることで遺伝子が転写され、体内でのHGF産生が期待されるのです。

ゾルゲンスマ(一般名オナセムノゲン アベバルボベク)は脊髄性筋萎縮症(SMA)(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査によりSMA発症が予想されるものも含む)に対する再生医療等製品です。
SMAは遺伝性疾患であり、脊髄運動ニューロンの生存に必要なSMNタンパク質を産生する遺伝子であるSMN1遺伝子の欠損により引き起こされます。

ゾルゲンスマはアデノ随伴ウイルス(AAV)9型へ正常なSMN1遺伝子を導入し、静脈内投与することで効果を発揮します。

ゾルゲンスマはアデノ随伴ウイルス(AAV)9型へ正常なSMN1遺伝子を導入し、静脈内投与することで効果を発揮します(このように細胞内に遺伝子を運ぶ存在をベクターと呼びます。コラテジェンではプラスミドを使用し遺伝子導入するのでプラスミドベクター、ゾルゲンスマはウイルスを使用し遺伝子導入するのでウイルスベクターと呼びます)。

> 再生医療コラム:遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」の効果と薬価の高さについて(別ウインドウで開きます)

AAV9ベクターは血液脳関門を通過し、運動ニューロンの核内に侵入、核内では導入されたSMN1遺伝子を放出します。こうして核内に放出された正常なSMN1遺伝子が読み取られることで継続してSMNタンパク質が産生されます。

上記に続き、現在も様々な遺伝子治療用製品が開発の段階にあります。
一方、厚生労働省の「遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保について」において「個々の遺伝子治療用製品等についての試験の実施や評価に際しては本指針の目的を踏まえ、その時点の学問の進歩を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応するものであることに留意すること。」と示されるように、開発には個々の製品の特性に応じた対応が求められています。レメディグループでは、多数の遺伝子治療用製品治験を経験しており、あらゆる開発段階での支援が可能です。

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