介護現場へXRを—新業域への参入、これからを語る<いつでもワンちゃん社内インタビュー2>

前回のVol.1では、「いつでもワンちゃん」が生まれた背景や開発ストーリーをお届けしました。

Vol.2となる今回は、サービス開始から1年半で80施設以上に導入されている「いつでもワンちゃんが」、介護現場でどのように活用され、ご利用者さまにどのような変化が生まれているのか——実際の声や事例をもとに、リアルな現場の姿をご紹介します。

「いつでもワンちゃん」とは?

福祉・介護施設向けに当社が開発・提供を行っている、MR(複合現実)アニマルセラピー。

福祉・介護現場では「犬や猫が好き」というご利用者様の声が多く聞かれる一方で、実際の動物を施設へ受け入れることは、アレルギー・衛生管理・職員の人手不足といった理由から難しい現状があります。これらの課題を解消しながら動物による癒しをいつでもどこでも提供したい、という想いで開発したのがMR技術を用いた「いつでもワンちゃん」です。

VRゴーグルを着用した女性と、仮想の犬(ラブラドール・レトリバー)がふれあっている様子製品ページはこちら

VRゴーグルを装着すると目の前に仮想の犬が現れ、撫でる・えさやりをする・ボール投げをして遊ぶなど、本物の犬のようなお世話やふれ合いを楽しむことができます。
仮想の犬は、本物の犬の動き・反応を忠実に再現しており、実際の動物によるアニマルセラピーに近い体験を届けられるよう工夫がされています。

VRゴーグルを装着した状態でも周囲の環境が視認できる「MR(複合現実)技術」を活用することによって、高齢者の方々でも安全に利用できる設計であること、スタッフ1名の見守りでレクリエーションが成立する、というメリットを生んでおり、施設スタッフやご利用者様から好評をいただいています。

2025年10月に公益財団法人テクノエイド協会の福祉用具情報システム(TAIS)に正式登録(*1)、クラウドファンディング(*2)では目標支援額を1週間で達成、導入施設が80件を越えました。販売開始から約1年半が経過した今も、サービスの拡大を目指しています。

参考サイト

*1 “仮想犬”が介護施設に笑顔を 国内初のMRアニマルセラピー福祉用具情報システム(TAIS)に正式登録 ~VRゴーグルで実現、省人化と衛生面に配慮した“ドッグセラピー”~

*2  CAMPFIREプロジェクト「【高齢者に笑顔を】MR技術で実現「いつでもワンちゃん」バーチャルアニマルセラピー」


インタビューは全3編に渡って公開を予定しており、本記事はVol.2となっています。
ぜひ最後までお楽しみください。
▶Vol.1はこちらから


「いつでもワンちゃん」が引き出す笑顔と記憶

インタビュアー
実際に福祉・介護施設での活用が進んでいるそうですが、ご利用者様の反応はどうでしたか?

Tさん
ご施設でのレクリエーションの様子を実際に見たとき、皆さんとても嬉しそうに、楽しそうにふれあってくださっています。

そして、その姿を見ている周りのスタッフの方々も笑顔で、いつでもワンちゃんを通して、ご利用者様とスタッフの皆さんの笑顔が溢れる時間になる場面が多いことがとても印象的です。

いろいろなご施設でご利用者様の様子を見させていただいたのですが、本物の犬のように感じてくださる方がとても多いんです。
名前を呼んでも近づいてこなかったり、そっぽを向いて遠くにいってしまったりと、まるで本物の犬のようにリアルな動きをするので飽きにくい、という声もあります。

本製品には触覚を再現する機能はないのですが、
ご利用者様のなかには、 “ふわふわしていた” “ほんのり温かい” といった感想を伝えてくださる方もいました。
リアルなワンちゃんとのふれあいを思わせるような体験のなかで、こういった主観的な印象が生まれることがあると知り、私たちにとっても喜びと驚きのある出来事でした。

インタビュアー
製品の仕様としては、目にするワンちゃんの姿と音声の情報だけなので、実際に触れているわけではないですよね。
それでも「触覚を想像して感じる方がいる」というのはすごいですね

Tさん
スタッフの方も驚かれていました。
その方は100歳のご利用者様だったのですが、他のご施設の若いスタッフの方でも「温かい」と感じる方がいらしたので、年齢に関係なく、ワンちゃんが好きな方はそのような感想を持ってくださるのかなと‥と。

あくまで推測ですが、ワンちゃんを飼っていた方はその当時を想起(思い出すこと)し、実際に触っていた感触を思い出すのではないかと考えています。

一般的に、想起は認知症の非薬物療法(回想法)においても活用されており、昔のことを思い出すことが脳の活性化につながり、高齢者の認知症予防や認知症患者の心理療法、リハビリテーションに活用されています。

このような背景から、「昔ペットを飼っていたご利用者様は、いつでもワンちゃんを使うことで、当時の記憶や触感を思い出すことが多いようなので、もしかすると認知症の方にも良い効果があるんじゃないか*」という期待の声を頂くこともあります。
ご利用者様やご施設からのフィードバックを受けて我々も思いがけない発見が生まれることもありますね。
※効果や結果を保証するものではなく、あくまで一般的な見解です

現場の声から生まれる新機能の方向性とは

インタビュアー
ご施設のスタッフさんやご利用者様からいただくフィードバックを通して、「いつでもワンちゃん」に追加していくコンテンツは具体的に決まってきていますか?

Kさん
そうですね。
「もっとこうした方がいい」「してほしい」とか、「こういう風なものがあったら便利だよね」といったお話はたくさんいただいておりますので、追加していきたいコンテンツであったり、修正したいものというのは、おかげさまでたくさん出ています。

そのなかで、優先順位を決めていくわけなんですけれども、現状はワンちゃんとよりコミュニケーションができるような機能を追加実装する方向で開発の準備を進めています

現状実装している機能の改良もやりたいなと思っているのですが、いつでもワンちゃんはご利用者様あってのサービスであるということを主軸に考えると、ご利用者様の目線でいただいている、「もっとインタラクティブなことができたらより楽しめる」という声に応えるかたちで進めていけたらと思っています。

幸いにも、先日クラウドファンディングもさせていただき、おかげさまで希望金額に達成することができましたので、ご支援いただいた方のためにも一日も早く新しい機能を形にできるよう進めています。

“笑顔”と“できた”が増える喜びが導入の後押しに

インタビュアー
いつでもワンちゃんを導入してくださっている施設にとって、導入の決め手となったポイントってなんですか?

Tさん
先ほどKさんがお話した価値(記事Vol.1「「コンテンツ提供」という新たな挑戦の中で見えた、難しさ」)はすべて当てはまりますが、ご施設の方々にとっての一番の決め手は「体験したご利用者様の嬉しそうな顔や反応」だと思います。

スタッフの方々も最初は半信半疑で「とりあえず試してみよう」から始まることが多いのですが、ご利用者様の反応が本当に良いのを見て「もっとワンちゃんとのふれあいをさせてあげたいな」「もう少し長く続けてみよう」と考えが変わり、購入を決めていただくケースが多いです。

また、ご利用中の反応以外にも決め手になっているのが「新たにできることが増える」という点です。

具体的に言うと、高齢であるご利用者様がVRゴーグルという最新機器をだんだんと扱えるようになること=ご利用者様のできることが増える=ご利用者様の自信に繋がる、ということになります。

“はじめはVRゴーグルの操作に慣れず、ワンちゃんをただ眺めるだけだったご利用者様が、徐々にVRゴーグルに慣れていき、やがてえさやりやボール投げができるようになる”

ご利用者様には「できた」という自信が生まれ、その変化を日々見守るスタッフの方々が、「ご利用者様のできることが増えた・喜びに繋がっている」という場面を目の当たりにした時も、導入のポイントになるようです。

スタッフの方々にも、ご利用者様の「できること」を増やしていきたいという思いを持つ方は多く、ご利用者様の笑顔や自信につながる様子は大きな決め手になっています。

あとは、スタッフの方々にとっても最新機器を使いこなせることで自信ややりがいが生まれて、それがさらにご利用者様に幸せを届ける原動力になっているという点も大きいと思います。

インタビュアー
ご利用者様の笑顔や反応だけでなく、自信ややりがいも決め手になるのですね!
しかも「できることが増える・自信に繋がる」というのは、ご利用者様とスタッフの方に共通している、と…。勝手な想像ですが「スタッフの方のやりがい=ご利用者様の笑顔」のようなケースが多いのかなと思っています。

Tさん
「いつでもワンちゃん」はご施設のスタッフの方々が使えるようになって初めて「施設のレクリエーション」として成立するので、そのために導入時に操作方法のレクチャーを行っていますし、好きなタイミングで後から見返すことができるレクチャー動画も用意しています。

現在導入してくださっているご施設の方々も「PCやスマホには慣れていても、VRゴーグルは初めて」という方がほとんどでした。最初のうちは操作に不安がある方もいますが、丁寧にご説明すれば簡単に使えるようになりますし、日々のやり取りのなかで「できるようになったのよ!」と声をかけてくださることもあって、私自身のやりがいにも繋がっています(笑)

「できるようになった」という手応えがご利用者様やスタッフの皆さんの自信に繋がって導入の決め手にもなる、というのは、当初は誰も想像もしていなかったですし、
人の生活を支える介護業界ならではなのかなとも思いました。

半信半疑から “導入したい”に変化する理由とは

インタビュアー
導入を決めてくださったご施設は、デモ体験後にすぐに購入を決めてくださるケースが多いですか?

Tさん
どのご施設もまずはデモ機で1週間ほど体験していただくのですが、実際の購入をすぐにしていただくケースは多くありません。むしろ、導入前は「VRゴーグルは高齢者には難しいのでは?」「怖がってしまうのでは?」と、半信半疑でスタートされるご施設がほとんどです。

そのため、多くのご施設が3ヶ月ほどのお試しプランを利用し、まずはご利用者様の反応を慎重に確かめながら検討を進められます。
ただ、その“慎重さ”が、体験を通じて少しずつ前向きな気持ちに変わっていくのが印象的なんです。

例えば、導入当初はVRゴーグルに抵抗が強く「とても無理だと思う」とおっしゃっていたご施設があったのですが、スタッフの方々がご利用者様の各部屋を回り、「ちょっとかけてみませんか?」と、一対一で安心して試せる環境を丁寧に作られたんです。
VRゴーグルを装着した際の視界が狭くなく、周囲も見えるタイプであることを説明し、スタッフが隣で付き添って見守る形にしました。

すると、ご利用者様に「VRゴーグルをかけるとワンちゃんに会える」と理解してもらえるようになり、最終的には「今日はワンちゃんの日?」と楽しみにしてくださる方や、VRゴーグルを見るだけで笑顔になる方が現れるようになったそうです。

そして、最初は半信半疑だったスタッフの方々も、ご利用者様の明らかな表情の変化を目の当たりにし、「思っていたより自然に使えている」「これなら続けてみたい」と認識が変わっていったのです。
今では週1回“ワンちゃんの日”を設けるほど、施設の文化として根づいているようです

いつでもワンちゃん導入中のコンフォールひなせ様(岡山県)の行事カレンダー。毎週水曜日を「いつでもワンちゃんの日」としてご活用いただいています。

デモ機での体験終了後、導入を断念するご施設もありますが、ご利用者様の反応の良さを見て「頑張って運用方法を考えてみよう」と模索してくださるご施設もあり、そういった際には細かなヒアリングを行いながら「ご施設にとっての価値」を考えて、どうやったら活用できるかなどを話し合い、導入に向けた支援を行っています。

インタビュアー
3か月のお試しプランを経て本格導入に至ったご施設で、運用面でのメリットなどを聞いたことはありますか?

Tさん
そうですね。
運用面だと、従来行っていたゴルフや体操などのレクリエーションは、スタッフ3〜4名が必要であったのに対して、VRゴーグルはスタッフ1名がいればレクリエーションとして成立させることができ、スタッフの負担軽減にもつながったという事例を聞きました。

職員の方々に余裕が生まれることにもつながり、施設全体の雰囲気向上に貢献しているという声もいただいています。

そのほか、ワンちゃんを施設の“愛犬”のように大切にしてくださり、芝生や名前入りの看板を作ったり、ワンちゃんの部屋を設置したり…と、積極的に愛着を持って運用されているご施設もあります

最初は「本当に使えるのか?」と半信半疑であったところから、「どうやってもっと活用できるだろう?」へと気持ちが切り替わる。
その変化を一緒に伴走しながら形にしていくことに喜びを感じますし、このような経過を私たちはとても大切にしています。

笑顔と涙、そして挑戦が生む胸に残る瞬間

インタビュアー
いつでもワンちゃんの活動を通して、嬉しかったことや心に残っていることはなんですか?

Tさん
「いつでもワンちゃん」の活動を通して心に残っている出来事は、本当に数えきれません。
どの施設でもご利用者様の笑顔や反応に触れるたびに胸が熱くなりますし、一つひとつが忘れられない経験です。

ある展示会では、かつてペットを飼っていた方がワンちゃんを見た瞬間、当時の思い出を語りながら涙ぐまれたことがありました
「もう会えないと思っていたのに、またふれあえた気がする」と喜んでくださる姿は、今でも心に深く残っています。

また、身体の麻痺で手足が自由に動きづらい方が、VRゴーグルをつけてワンちゃんと遊ぼうと、懸命に手を伸ばしてボールをつかもうとしていた光景も忘れられません。
思わずこちらも涙が出そうになるほど、一生懸命な姿でした。「やってみたい」と思う気持ちに機器が寄り添い、行動を引き出す瞬間を目の当たりにした出来事です。

さらに、あるご施設で起きたエピソードも強く印象に残っています。
ワンちゃんの導入直前、担当スタッフの方がご自身の愛犬を亡くされた直後だったのですが、「癒しになるかもしれない」と施設長が声をかけてくださり、試していただくことになりました。

後日ご施設に伺うと、ワンちゃんの犬種と名前が、偶然にもその方の愛犬と同じものになっており、スタッフの方は「仕事のやりがいになっています」とお話しくださいました。
製品が“業務ツール”を超えて、誰かの人生に寄り添う存在になれることを実感した瞬間でした。

インタビュアー
Kさんはいかがですか?

Kさん
私は、ご利用者さまがVRゴーグルを着けてチャレンジしてくださる姿を生で見るたびに、強く感動します。

VRゴーグルは若い世代のもの、自分には扱えないものだ――
そうした先入観を持つ方が多いなかで、「やってみよう」と一歩を踏み出してくださる。
その挑戦そのものがすでに大きな価値であり、たとえ完璧に使いこなせなくても、ゴーグルを着けたその瞬間が次の体験や意欲につながっていきます。

私たちは、「いつでもワンちゃん」を使いこなせることよりも、新しいことに触れてみるという小さな行動が生まれることに価値があると思いますし、これを何より大切にしています
新しい技術に向き合い、まず一歩を踏み出してみる経験は、ご利用者様だけでなく、ご施設にとってもポジティブな変化をもたらすと思います。

こうした光景を実際の介護現場で目にするたびに、このサービスが持つ可能性をあらためて強く実感し、感動します。

現場に新たな選択肢と価値をもたらす“きっかけ”を届ける

インタビュアー
いつでもワンちゃんを通して実現したいことは何ですか?

Kさん
私たちが「いつでもワンちゃん」を通して実現したい未来は、介護の現場に“新しい選択肢”と“人の幸せを広げるきっかけ”を届けることです。

介護・福祉の現場では、人手不足や認知症への対応、感染症の対策など、日々さまざまな課題に追われ、どうしても「今やるべきこと」が優先されがちです。
しかし、超高齢化社会が加速するこれからの日本において、この状態が自然に変わることはありません。
誰かが新しい挑戦を始めなければ、現場はより厳しくなってしまう。

だからこそ、テクノロジーを活用しながら、利用者とスタッフ双方の幸せを生み出せる環境をつくる必要があると思っています
「いつでもワンちゃん」は、高齢者の
“できなかったことができるようになる喜び”
“誰かの役に立てる誇り”
“日常的な会話が増えるきっかけ”
など、一見すると小さく見える変化をもたらすことができるサービスです。

けれども、これらの小さな変化こそがご利用者様の自己有用感を高め、生活に活力をもたらし、介護の本質である“その人らしさを支える価値”につながっていきます。

ご利用者様に前向きな気持ちが生まれれば、スタッフの負担軽減ややりがいの向上にもつながり、ご利用者様の幸せとスタッフの幸せが循環していく未来を目指すことができるのではないかと考えています。

VRゴーグルのような最新機器を介護現場に導入することは、一見するとハードルが高く感じられるかもしれません。
しかし、ひとつチャレンジをしていただくことで、「いつでもワンちゃん」だけでなく、さまざまなアプリケーションやデジタルレクリエーションの可能性が一気に開けていきます。

VRゴーグルを使うことが日常の選択肢として根づくようになれば、施設にいながら体験できることの幅や量が広がり、ご利用者様が触れられる世界も、そこから生まれる感情も豊かになります。
新しい技術を取り入れるその一歩が、現場に“新しい選択肢”を生み出し、介護の可能性そのものを拡張するきっかけになると、私たちは信じています。

「いつでもワンちゃん」が届けたいのは、
単なる技術ではなく、ご利用者様・スタッフ・現場全体が少しずつ幸せになる未来。
その未来を、私たちは介護の現場とともに創り出していきたい
と思っています。

 

Vol.3へ続く


いかがでしたでしょうか。
今回の記事では「いつでもワンちゃんが」、介護現場でどのように活用され、ご利用者にどのような変化が生まれているのか——実際の声や事例をもとに、リアルな現場の姿をお届けしました。

インタビュー記事vol.3では、今後の展望や、介護以外でのニーズなどに関してお届けいたします。
ぜひお楽しみに!


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