レメディ・アンド・カンパニーが2024年7月にサービスを開始したMR(複合現実)アニマルセラピー「いつでもワンちゃん」。
販売開始から約1年半の間に導入施設は80施設を超え、多くの福祉・介護施設・ご利用者様へXR技術を用いた、新たなアニマルセラピー体験を提供してまいりました。
従来、医療・製薬業界向けのサービスを提供してきた当社が、なぜMRコンテンツを開発し、介護業界へ参入したのか。
今回、「いつでもワンちゃん」チームを牽引してきたKさんと、営業担当のTさんにインタビューを行いました。
目次
「いつでもワンちゃん」とは?
福祉・介護施設向けに当社が開発・提供を行っている、MR(複合現実)アニマルセラピー。
福祉・介護現場では「犬や猫が好き」というご利用者様の声が多く聞かれる一方で、実際の動物を施設へ受け入れることは、アレルギー・衛生管理・職員の人手不足といった理由から難しい現状があります。これらの課題を解消しながら動物による癒しをいつでもどこでも提供したい、という想いで開発したのがMR技術を用いた「いつでもワンちゃん」です。
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VRゴーグルを装着すると目の前に仮想の犬が現れ、撫でる・えさやりをする・ボール投げをして遊ぶなど、本物の犬のようなお世話やふれ合いを楽しむことができます。
仮想の犬は、本物の犬の動き・反応を忠実に再現しており、実際の動物によるアニマルセラピーに近い体験を届けられるよう工夫がされています。
VRゴーグルを装着した状態でも周囲の環境が視認できる「MR(複合現実)技術」を活用することによって、高齢者の方々でも安全に利用できる設計であること、スタッフ1名の見守りでレクリエーションが成立する、というメリットを生んでおり、施設スタッフやご利用者様から好評をいただいています。
2025年10月に公益財団法人テクノエイド協会の福祉用具情報システム(TAIS)に正式登録(*1)、クラウドファンディング(*2)では目標支援額を1週間で達成、導入施設が80件を越えました。販売開始から約1年半が経過した今も、サービスの拡大を目指しています。
参考サイト
*1 “仮想犬”が介護施設に笑顔を 国内初のMRアニマルセラピー福祉用具情報システム(TAIS)に正式登録 ~VRゴーグルで実現、省人化と衛生面に配慮した“ドッグセラピー”~
インタビューは全3編に渡って公開を予定しており、本記事はvol.1となっています。
ぜひ最後までお楽しみください。
レメディ・アンド・カンパニ―とXR開発
インタビュアー
それではKさん、Tさん、本日はよろしくお願いいたします。早速1つ目の質問です。
「いつでもワンちゃん」を自社開発したとのことですが、以前からXR技術を活用したコンテンツ開発は行っていたのでしょうか。
Kさん
XR技術を活用した開発自体は行ってはいましたが、ほとんどが受託開発で、自社開発という意味では「いつでもワンちゃん」が初めての製品ですね。
当社は日本を含めたアジア、グローバルサウスを中心とした医薬品開発の支援や、薬事コンサルティングを提供している会社です。医療は日々進化しているものの、依然として世界レベルで蔓延る課題は山積みです。私たちは、それらをどのようにダイナミックに解決できるかを考える中で、よりテクノロジーを活用していくこともそうですし、会社として新しい事業ドメインを立ち上げて成長を加速させていくフェイズでした。
このような背景で2022年から新規事業として「デジタル事業」が立ち上がりました。
ですが、当社の人材はもともとXR技術に明るい専門家がいるわけでもないですし、業界に詳しいわけでもないので、本当にゼロからのスタートだったんです。
なので、XR技術の知識をもったエンジニアを採用したりして組織を作りながら、「当社が今まで培った知見を活かして、何ができるか」というのを日々模索したり、医薬品開発の支援を行う事業でお取引があったお客様から、医療現場で使用する研修コンテンツなどのXR開発のお話をいただいたりしながら、当社のノウハウや知見が少しずつ溜まることで、自社開発プロダクト「いつでもワンちゃん」が誕生しました。
開発背景 バーチャル×アニマルセラピーに至った理由とは
インタビュアー
福祉・介護施設を対象とした「いつでもワンちゃん」の開発に至った理由・背景を詳しく教えてください。
Kさん
もともとは、国際医療福祉大学の先生方と「バーチャルで体験するアニマルセラピーみたいなものを作ってみたいね」とお話したところから始まりました。
そこからまずはβ版を開発したのですが、それとは別にレメディで製品化し、福祉・介護施設で販売していくというような流れになった、というのが開発の経緯です。
先ほどもお伝えしましたが、当社はもともと医療分野で事業を行ってきたので「新規事業・サービス」を始める上で、“XRで解決できそうな医療課題を抱えるお客様“をゼロから探す必要はなかったんです。実際、もともとお付き合いのあった大学の先生方や企業の方のなかでも、テクノロジーを使って医療やさまざまな課題を解決したいと思っている方はたくさんいらっしゃるので、情報交換・共有という形で議論を多方面で進めていました。
そのなかで、「動物によって行うアニマルセラピーを、XR技術で再現して効果検証をしてみたい」という小さな話からスタートしたのが、「いつでもワンちゃん」の始まりです。
新規ターゲットへのコンテンツ開発は「全てがチャレンジング」
インタビュアー
お客様をゼロから探す必要はなかったとは言え、サービスが「B to B」から「B to B to C」へと大きく変化していますよね。
今までの事業と異なるターゲットに対してコンテンツを開発する中で、難しかったことやチャレンジだったことはありますか?
Kさん
やったことがないことに挑戦をするので、全てがチャレンジングですし、言ってしまえばすべてが難しいです(笑)
介護業界について正しく理解できていない・業界の当事者ではない、ということはもちろん、当社にいるほとんどの者がXR等の技術畑で育ったなどのバックグラウンドを持つ社員ではない、という意味において二重のハードルが存在していたと思います。
また、会社としても新しい取り組みになるので、石橋を叩きながらプロダクトの開発・販売をしていくことになりますが、慎重になりすぎたところで「結局のところやってみないと分からない」という部分が多かった印象があります。
なので、まずはいち早く世に出すことを最優先事項にして、実際のお客様に体験したいただき、その反応を見て、どんどん改良していく。この過程で進めていくことが、私たちの事業価値を最短で上げていくことに繋がり、ひいてはテクノロジーの力を駆使して医療や介護福祉業界の未来を作っていくことにも繋がるのではないかと考え、日々動いていました。
そのなかで、スピード重視で進めるべき部分と、慎重に議論や調査をして進めるべき部分をきちんと棲み分けながら開発・販売に取り組み、しっかりと自分たちで意思決定していく、ということをかなり意識しましたね。
これはレメディの仕事や事業の進め方で特徴の一つかもしれません(笑)
とりあえず走ってみて、そこで得られる現場感や体感、温度感、これらを踏まえて日々軌道修正を重ね、最短でゴールまで突き進んでいく。
もちろん大変なこともありますが、走り出すまでのスピードを最優先にして、唯一無二の取り組みや動きをすることで、革新的な技術や製品を生み出していくことができると考えています。
試行錯誤の中で進めた開発のこだわりとは
インタビュアー
「いつでもワンちゃん」の開発にあたって、こだわった点を教えて下さい。
Kさん
サービスとして一番こだわった点は「安全かつシンプルな設計」です。
それを前提にして、仕様面の観点でこだわったことなら「VRゴーグルを用いながらVR(仮想現実)ではなくMR(複合現実)」を取り入れたことですね。
VRゴーグル自体が比較的新しいもので、高齢者の方々はもちろん年齢問わずほとんどの世代でまだ馴染みが薄いことは理解していたため、ご利用者様をはじめそれを介助する方々にも安心していただくために「安全」「分かりやすさ」というのは最重要事項でした。
また、VRゴーグルでVR(仮想現実)を見ると、現実の景色から完全に異なる空間を見ることになるので、長時間使用するとどうしても酔いやすくなってしまうんです。
できるだけ負担や抵抗感を軽減することと、より現実に近い状態で本物の犬とふれ合っているような体験を届けたかったので、MR(複合現実)にたどり着きました。
この選択が違っただけで製品として大きく異なって来るんですよね。
「VR」=Virtual Reality、仮想現実
VRゴーグルを着けて視界を360度遮断するため、実際にバーチャル上の空間にいるような感覚を得ることができる。
「MR」=Mixed Reality、複合現実
現実の世界に、バーチャル(仮想)のオブジェクトを組み合わせることで、現実と仮想のどちらも楽しむことができる。いつでもワンちゃんの場合、”体験者がいる場所、部屋、家具や周りの人(現実世界)”に”バーチャルの犬(仮想)”が組み合わさっているため、「目の前に犬が現れた」ような感覚を楽しむことができる。
VRゴーグルから見た実際の様子の画像
(現実のオフィスに、仮想の犬とグレーのベッドが融合された状態)
インタビュアー
そうだったのですね。開発のなかで、特に具体的に大変だったことはありますか。
Kさん
犬という多くの人にとって身近なテーマの製品であるがゆえに、個々人の経験をベースに多種多様な角度の意見が出ることが、大変だったことですかね。
開発を進めるなかで、動物の動きや表情、どんな機能をつけるかどうかを話し合ったのですが、個々人の経験をベースに思い出しやすくて、本当にさまざまな意見や指摘が出たんです。
例えば好きな犬種を一つとっても、柴犬が好きだったり、トイプードルが好きだったりとみんな違うわけなんです(笑)
その上で、製品として見た時にどんな機能があった方が良いのか、ゲーム性があった方がいいのかとか、犬の成長性があった方がいいのかとか、医師の方々に使っていただくところまで見据えた場合は・・・など、立場によって意見がたくさん出やすいからこそ、一つ一つをしっかりと精査をしなければいけないところは、いい意味でも大変だった点かなと思いますね。
製品名の由来は…
インタビュアー
「いつでもワンちゃん」のネーミングを決めるのにも、さまざまな議論があったようですが、どのような想いを込めて「いつでもワンちゃん」に決めたのでしょうか?
Kさん
結論を言うと社長のネーミングなんです(笑)
ですが、名前を聞いた時にイメージしやすい点は大きなポイントだと思っています。
最初は別案が4つくらいあって、チーム内で議論してから社長に最終確認に行ったんですが、その場で社長から「いつでもワンちゃん」というアイデアが出て、その場で決まりました(笑)
チーム内でも、もっと分かりやすくできたらいいなと考えていたので、「いつでもワンちゃん」と聞いたとき、めっちゃ分かりやすい!ってなりました(笑)
Tさん
他にも候補がいろいろありましたね。
チーム内で製品名候補の議論をした時、別の候補を選んだんです。
当時の感覚では良いと思っていたのですが、今振り返ると少し分かりづらいというか、聞いた時に何のサービスなのかパッと想像しづらかったなと。
「いつでもワンちゃん」は分かりやすくて、高齢者の方でも親しみやすい名前だなと思います。
Kさん
プロダクトが認知しやすいっていう面もあって、結果的に「いつでもワンちゃん」で良かったと思っています。
Tさん
名前にまつわるちょっとした話なんですけど…お客さんや外部の方に「いつでもワンちゃん」ではなく「どこでもワンちゃん」に間違えられることが結構あるんです(笑)
Kさん
ありますね~。
いつでも・どこでも犬と遊べるっていうイメージがなんとなく頭にあるのか、社員でもたまに間違えるときがあります(笑)
Tさん
しっかりと名前を覚えてもらうことってやっぱり難しいんだなと感じています。
“いつでもどこでも”の1つ目の方、「いつでもワンちゃん」なので、ぜひ皆さん覚えてください!
「コンテンツ提供」という新たな挑戦の中で見えた、難しさ
インタビュアー
従来のレメディグループの無形サービスと比べて、「いつでもワンちゃん」のような有形でユーザーに近いコンテンツを提供することは大きな挑戦だと思います。実際、どのような点が難しかったでしょうか?
Kさん
現在進行形の話なのですが、ユーザーの新しいものに対する最初の心理的ハードルについて難しさを感じることが多いです。
「いつでもワンちゃん」はVRゴーグルを使用して楽しんでいただくサービスなのですが、ご利用者様だけでなくスタッフのなかに“VRゴーグルという新しいものに対するハードル”があるということを実感しています。
ご施設の方々からするとVRゴーグルはあまり触れたことがない機械であり、パソコンやスマートフォンよりも操作が難しく見えてしまうため「展示会での体験だけならいいけど、(施設に)新しいものを導入するのは難しい・・・」と、サービスよりももっと手前の、使う機械でハードルに引っかかりやすいんです。
そのため、「いつでもワンちゃん」に魅力は感じつつも導入に踏み出せない・・というようなケースがよくあって。
機械に対するハードルだけで言えば、ほとんどのご施設が大なり小なりこのような心理的なハードルをお持ちだと思います。
しかし、その一方で積極的に使っていただけるご施設もたくさんあります。
そういったご施設では、100歳のご利用者様にも楽しんで使っていただけたり、高齢者の方々から「全然ゴーグル重くない」「酔わない」というお声を頂けるんです。
なかには「VRゴーグルを外すと、目の前からワンちゃんがいなくなって寂しい」というお言葉をいただける施設もあり、導入前の心配とは裏腹に、ご利用者様が率先して操作を行う場面もあるんです。
もちろんご施設ごとに差はありますが、そういったお声をいただくと導入前の機械への不安は意外とクリアできるものがほとんどなのではないかと思います。
だからこそいかに初期ハードルというか、心理的なハードルをクリアしてもらうか、というのは我々の大きな課題だと思うとともに、そこをクリアできれば「いつでもワンちゃん」の可能性をもっと体感いただくことができるんだろうなと考えています。
インタビュアー
なるほど。「展示会での体験は良くても現実的に導入は難しい」という点について、心理的なハードル以外に考えられる理由はありますか?
Kさん
厳しい言い方になりますけど、スタッフの皆さまが日々の業務がものすごく忙しいなか、施設内でデモ機を操作して、体験の準備をして‥って時間を取るまでの価値を感じていただけなかった部分はあるのかもしれないですね。
実際に体験していただいた方からは「想像以上にリアルな犬で驚いた」「これは自分で体験しないとわからない」という言葉をよく頂くのですが、商談中の資料や言葉だけではなく「VRゴーグルを着けて体験しないと伝わらない」部分が大きいのが理由だと思います。
インタビュアー
確かに紹介動画で見る印象と、実際にVRゴーグル越しに見た時の印象はかなり違いますよね。
こういったハードルを乗り越えるために、何か取り組みなどは行っているのでしょうか。
Kさん
心理的ハードルを下げたり、スタッフやご利用者様に「いつでもワンちゃん」の価値を体験していただくために、デモ機の送付や無料体験など、ご施設に合わせてさまざまなプランをご提案しています。
「いつでもワンちゃん」をご施設で活用する際の価値や目的って、実は施設ごとにそれぞれ違うと僕は思っています。
名前の通りアニマルセラピーに類する価値もありますけど、
ハンドサインやボール遊びを通した運動の動機づけであったりだとか、ご利用者が各々昔を思い出して「昔こういうワンちゃんを飼っていたの」っていうコミュニケーションにつながるとか。
レクリエーションとして見れば、デジタルアクティビティ自体の浸透があまり進んでいなかったりするので、施設内でのレクのマンネリ化を解消できたりとか。
こういったように、ご施設の方々が抱えている課題は多種多様であって、それらの課題に対して「いつでもワンちゃん」がアプローチできる可能性があるのではと思っています。
ですが、購入いただいた後に「やっぱり違ったね」っていうのは良くないので、事前にしっかり課題感などをヒアリングさせていただき、そのうえでデモ機を送付したり無料体験だったり、お試しプランを活用いただいたり…ご施設の課題に合わせてプランを用意するようになったんです。
課題にフィットするかどうか、事前のすり合わせでお話がちゃんとできた施設は、デモや体験が終了した後も継続してご活用していただけているところが多い印象です。
我々としてもこの「いつでもワンちゃん」の価値には自信を持っていて、今のご施設様の課題やご状況に対して、我々のサービスが、「今」フィットするかしないかっていうとこをしっかりとご相談できれば、どんどんどんどん販路は広がるだろうなっていうのは感じてはいますね。
Vol.2へ続く
いかがでしたでしょうか。
今回の記事では、開発背景やチームを牽引する立場から見る新規事業の立ち上げ期の様子をお届けしました。
インタビュー記事vol.2では、実際の現場での活用の様子やご利用者様の反応などをお届けいたしますので、ぜひお楽しみに!
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